Model by Takeshi Yamamoto, Johann, Shintaro Iwata, Shido Akama
Photo by Yuuki Oohashi / Interview & Text by Kaoru Hori

経営者×書芸家×イラストレーター×デザイナー。
新聞広告を作りつづけた四人の軌跡を追う。

岐阜県で電子部品実装機や航空宇宙機器などの精密部品製造を行う株式会社岩田鉄工所が2022年1月から毎月、新聞紙面上にて企業広告の掲載を続けている。代表取締役社長であり広告のディレクターを務める岩田真太郎、イラストレーターのJohann、書芸家の赤間紫動、クリエイティブ・デザインを手がける山本武司の4人に、始めた経緯やそれぞれの手応え、今後の展望について聞いた。

モノづくりの魅力を若い世代に伝えたい

全面、しかも非常にアート性の高い企業広告を1年半続けてきたわけですが、どのような経緯で始まったのですか。

まず、この4人がどのように集まったか、話しますね。山本さんとは2018年、デザインの仕事でご一緒したのが始まりです。知識人で的確な助言やアイデアをいただけるので、さまざまなプロジェクトに協力してもらっています。赤間さんとはその翌年から。会社の創業65年を迎えるタイミングで、社名の揮毫を伝統や歴史を感じつつ前衛的なものに一新しようと考え、オファーしたのがきっかけです。

三代目として社名をしかと受け継ぎ、さらに挑戦を続けるために新しい揮毫にしようと思ったと。

そう。ウチのモノづくりの精神や魅力を表現できる書家はいないかと調べまくった結果、先進的で圧倒的に格好よかったのが赤間さんの書だったんですよ。

嬉しいな。最初に送ってきた長文メールから伝わる熟意がすごくて、速攻で会っちゃったんだよね(笑)。

(笑)光栄です。Johann君は、僕の好きなDragonAshのデジタルシングルのアートワークをやっていて、一気に興味が湧きました。その後、個展をやっているのを知り、どうしても見たくて日帰りで東京に行ったんです。

それ、鮮明に覚えています。初めての本格的な個展で、原画を最初に購入してくれた人が岩田さんだったから。しかも「買ってもいいの?」って僕に訊いてきたんですよね(笑)。

そう(笑)。直筆の原画が買えるなんて思っていなかったからね。それで帰りの新幹線で「赤間さんの書とJohann君のイラストは相性が良さそうだな。…いや、これ、自分が一緒に何かやりたいわ!」と考えていたのですが、その数週間後に新聞広告の話が飛び込んできたんです。「これはやるしかない!」と思って。時間のない中、とにかく山本さんとアイデアを出し合い、赤間さんにすでに書いていただいていた書と、Johann君に描き下ろしてもらったイラストを組み合わせ出稿しました。そのデザインを見て、相性の良さを再確認したと同時に、SFのストーリーを連載するアイデアと構想が生まれたんです。この4人なら、モノづくりの魅力や楽しさを若い世代に伝えることができるんじゃないかと。

『HARE』と『ASICS SportStyle』による限定コレクション。
書芸家・赤間紫動によるグラフィックデザインで「和」のモードスタイルを表現した。

1年半を振り返り、どのような手応えを感じていますか。

連載1年目は「挑戦」、2年目は「復活」をテーマに描いているんですが、まさにこの広告を毎月生み出すこと自体が挑戦で。新聞というごまかしの効かない媒体で、デザインなり内容なりがきちんとしているものを提供するというプレッシャーがとてつもなく大きかった。まず1年、乗り越えられたのは本当によかったし、達成感がありました。

この広告にはJohann君と僕の名前がクレジットされているんです。それはやっぱり緊張感があるし、絶対に手が抜けない。あと、岩田さん自身が僕らのアート性を理解してくれているので、「広告」だけど、自分たちの「作品」でもある。すごくありがたいです。

僕はSF作品を一度は描いてみたいと思っていたので、岩田さんから近未来のストーリーを聞いた時はワクワクしましたね。あと、新聞の全面広告だから結構描き込まないといけないので、1年目の終わりには画力がすごく上がっていて(笑)。成長させてもらっているし、なおかつ実績にもなって、本当に楽しいです。

私の立ち位置としては「料理人」ですね。岩田さんがレシピをつくり、上質な食材が赤間さんとJohann君から届く。それをいかに調理し、お皿に乗せ、お客様に提供するかが私の仕事。ただ、この広告の場合は食材が良すぎるので、煮込んだり焼いたり漬け込んだりしなくても、勝負できるんですよ。先輩デザイナーからは「全面広告を毎月連載できるなんて!」と妬まれています(笑)。

実際の大きな効果といえば、僕とJohann君は連載1年目にして、DragonAshさんや、ボタナイズさんとコラボレーションすることができました。

それは僕もホント、涙が出るくらい嬉しかった!

新規でいただく仕事は「あの広告、格好いいよね」と言われることが多いです。けっこう注目される広告なんだなとあらためて感じますね。

「新聞」という媒体には可能性がある

「新聞」というのは、その日読んだら役目を終えるという点では儚い。そのような媒体に広告を出すことについてはどのように捉えていますか。

確かに1日経てば捨てられてしまうかもしれませんが、新聞特有の即時性や時事性に魅力を感じています。

モノづくり感はすごくあるよね。今はデジタルメディアが主流で、データでやり取りして終わることが多いけれど、新聞だと印刷されて、プロダクトとして手元に残る。

デジタルはデジタルの良さがある。でも、紙の媒体を通じてしか表現できないものも必ずあると思うんです。手で触れられたり、インクの匂いだったり、目で見るインパクトの大きさだったり。時代が進めば進むほど、その価値が高まると思う。

ヴィンテージの雑誌の切り抜きに破格の値段がつくように、この新聞広告もいつかね。

まさしくそれと関連するんだけど、新聞には必ず日付が入りますよね。それがエモーショナルというか、時代や歴史を感じさせるし、後日見たときに当時の記憶を引き寄せる時限装置になる。

親が子どもの生まれた日の新聞を取っておくとか、よく聞くよね。

そう。ウチはモノづくりの会社なので、やはり形として残るもので表現をしたい。作品をつくる上でデジタルツールはもちろん活用するけれど、この4人による最終的なアウトプットはアナログでしか表現できないと思うんです。

TVアニメのOPテーマに起用された Dragon Ash デジタルシングル『エンデヴァー』。
イラストレーター・Johannがアートワークを担当。ミュージックビデオの監督も務めた。

最後に今後の展望があればお聞かせください。

実は来年くらいに、それぞれの作品を一堂に展示したいと思っていて。その際には岩田鉄工所の技術が入った新たなプロダクトも発表できればと考えています。Johann君のイラストも赤間さんの書も、日本的かつ先進的なものを感じるので、いつかアートに関心の高い海外で企画展をできたら最高ですよね。

だったら、これだけは最後に言っておきたい。3年目もやろう!(笑)

珍しいですよね、「次も続けたい」ってこんなに言うの。毎回全力投球なので、本当はしんどいはずなのに(笑)。でも確かに始まった当初は「1年12回、満足のいく広告がつくれるか」という不安もあったんです。完成度の低い月も出てくるのではないかと。ところが1年を通して4人全員、一度も集中力が途切れなかったんですよね。

1年目、2年目の成長具合というのは自分でも感じるし、この最低限のコミュニケーションで最高のクオリティを保てるチームは、やっぱり特殊だと思うんです。3年目に広告をつくるかはわからないけれど、仲間が増えていったら嬉しいですよね。例えばここに音楽が加わり、アニメーションがついて、ストーリーがもっと膨らんだらいいなって。この活動に賛同するクリエイターや企業が増えたり、表現する場所として活用してもらえたりしたら、もっと面白くなるんじゃないかなと。それで互いの表現や技術が向上したら、もう言うことないですね。

本記事は2023年6月24日に
産経新聞(総合版/東海・北陸・関西一部地域)に
掲載されたものをWeb用に再構成したものです。

INFORMATION

株式会社岩田鉄工所・株式会社ITK
企業広告プロジェクト

2022年1月から産経新聞(統合版/東海・北陸・関西一部地域)にて毎月連載中の広告シリーズ(全面カラー)
岐阜県の製造業の企業である株式会社岩田鉄工所・株式会社ITKが、モノづくりの魅力を若い世代をはじめとした幅広い人へ伝えるため、SF・テクノロジーをテーマに企業広告を作り続けている。以下の特設サイトにて今までの掲載広告を全て見ることができる。

広告シリーズ一覧
itk-pro.com/shido_akama-johann

PROFILE

岩田真太郎(イワタシンタロウ)

1979年 岐阜県生まれ。株式会社岩田鉄工所・株式会社ITK代表取締役。人型ロボットハンド「ハンドロイド」等、国内の企業や大学と共同開発を行い、CES(ラスベガス)やHYPER JAPAN(ロンドン)といった国際的な展示会で発表。2021年、親交の深いデザイナーと共にデザインブランドLANDMを創設。
lit.link/shintaroiwata

赤間紫動(アカマシドウ)

1975年 東京都生まれ。幼少期より書を学び、2003年より書芸家として活動開始。書道技法と現代デザインを融合した躍動感のある独自スタイルが国内外で高く評価され、ファッションブランドを中心にアパレル等のコラボレーション商品をリリース。広告・カタログ・ロゴデザインなど数多く手掛ける。
instagram.com/shido_ak

Johann(ヨハン)

1993年 千葉県生まれ。大学卒業後、週刊漫画雑誌の新人賞を受賞し漫画家デビュー。グラフィックデザイン、CM等の絵コンテを経験しながら2020年よりイラストレーターとして活動開始。音楽アーティストのジャケット・アートワーク・MVアニメーション・グラフィティアートなど、活躍の場を広げている。
instagram.com/johann48_illust

山本武司(ヤマモトタケシ)

1976年 岐阜県生まれ。株式会社クイントエッセンシャル代表取締役。豊富な企業経験から、ブランディングを中心としたデザイン活動を行う。JAGDA(日本グラフィックデザイナー協会)会員、CCC(中部クリエーターズクラブ)会員。日本デザイナー芸術学院講師。日経BP Marketing Awardsなど受賞多数。
quintessential.jp

堀香織(ホリカオル)

石川県金沢市生まれ。武蔵野美術大学卒業後、雑誌『SWITCH』の編集者として映画監督や俳優、アーティストなどの数多くの取材を行い原稿を掲載。2003年よりフリーランスのライター兼編集者として活動開始。インタビューを中心に各媒体で執筆を行う。単行本のブックライティングなど活動は多岐に渡る。
note.com/holykaoru

大橋祐希(オオハシユウキ)

1984年 愛知県生まれ。撮影スタジオで働きながら独学で技術を習得し、2013年にフォトグラファーとして活動開始。大手メーカーの広告を中心に、タレント・俳優・ミュージシャンなど、独自の感性で被写体の魅力を捉える技法は唯一無二。ポートレートに限らず音楽のライブカメラマンとしても活躍する。
oohashiyuuki.com

株式会社岩田鉄工所
(イワタテッコウショ)

1954年に岐阜県羽島市にて創業。電子部品実装機の精密部品を製造。高度な加工技術と充実した設備により、複雑で工程の多い高精度な部品加工を得意とし、航空宇宙関連部品などの高難度で少量多品種の部品加工も行う。2019年 航空宇宙・防衛産業に特化した品質マネジメントシステムJIS Q 9100を取得。
itk.co.jp

株式会社ITK(アイ・ティー・ケー)

岩田鉄工所(岐阜県羽島市)の開発部門が独立し、2006年に設立。電動伸縮杖「伸助さん」、回転式草取器「抜けるンです」、人型ロボットハンド「ハンドロイド」など、岩田鉄工所の設計・加工ノウハウを活かしたアイデア商品の開発・販売を行う。大学や企業との共同研究の実績も多い。
itk-pro.com